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青鬼が、 「ぼうぼう、ぼうぼう、」
 青鬼が、
「ぼうぼう、ぼうぼう、」
 赤鬼が、
「ぐらッぐらッ、ぐらッぐらッ。」
 と陰気な合言葉で、国境の連山を、黒雲に背負って顕れた。
 青鬼が、
「ぼうぼう、ぼうぼう、」
 赤鬼が、
「ぐらッぐらッ、ぐらッぐらッ。」
 よくない洒落だ。――が、訳がある。……前に一度、この温泉町で、桜の盛に、仮装会を催した事があった。その時、墓を出た骸骨を装って、出歯をむきながら、卒堵婆を杖について、ひょろひょろ、ひょろひょろと行列のあとの暗がりを縫って歩行いて、女小児を怯えさせて、それが一等賞になったから。……
 地獄の釜も、按摩の怨念も、それから思着いたものだと思う。一国の美術家でさえ模倣を行る、いわんや村の若衆においてをや、よくない真似をしたのである。
「ぼうぼう、ぼうぼう。」
「ぐらッぐらッ、ぐらッぐらッ。」
「あら、半助だわ。」
 と、ひとりの若い女中が言った。
 石を、青と赤い踵で踏んで抜けた二頭の鬼が、後から、前を引いて、ずしずしずしと小戻りして、人立の薄さに、植込の常磐木の影もあらわな、夫人の前へ寄って来た。
 赤鬼が最も著しい造声で、
「牛頭よ、牛頭よ、青牛よ。」
「もうー、」
 と牛の声で応じたのである。
「やい、十三塚にけつかる、小按摩な。」
「もう。」
「これから行って、釜へ打込め。」
「もう。」
「そりゃ――歩べい。」
「もう。」
「ああ、待って。」
 お桂さんは袖を投げて一歩して、
「待って下さいな。」
 と釜のふちを白い手で留めたと思うと、
「お熱々。」
 と退って耳を圧えた。わきあけも、襟も、乱るる姿は、電燭の霜に、冬牡丹の葉ながらくずるるようであった。

ビューカード@ blog :: 隨意窩 Xuite日誌
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