――一体、機関庫助役の片山と言う人は、もう部下達も相当期間交際ってたんですが、どうもまだ、時々人を不審がらせる様な変な態度に出るのが、彼等には甚だ遺憾に思われてたんです。何故って、例えばB町を引挙げた助役は、H機関庫に帰って来ると、直ちに翌日からまるで「葬式機関車」の奇妙な事件なぞはもう忘れてしまった様に、イケ洒蛙洒蛙と平常の仕事を続け出したんです。二日経っても、三日経っても依然としてそのままなんです。で、堪えかねた部下の一人が五日目の朝になってその事を詰問? すると、その又返事が実に人を喰っとるんです。「だって君。何もする事がなければ仕方がないじゃあないか」――てんですよ。 でも、その日の真夜中になって、助役のこの態度はガラリと一変しました。 それは多分、夜中の三時頃でしたでしょうか、助役は部下の一人――吉岡と言う男ですが――を叩き起して外出の支度をすると、眠不足でフラフラしている彼を引張る様にして、自動車に乗り込んだのです。
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