瓢箪に宿る山雀、と言う謡がある。雀は樋の中がすきらしい。五、六羽、また、七、八羽、横にずらりと並んで、顔を出しているのが常である。
或殿が領分巡回の途中、菊の咲いた百姓家に床几を据えると、背戸畑の梅の枝に、大な瓢箪が釣してある。梅見と言う時節でない。
「これよ、……あの、瓢箪は何に致すのじゃな。」
その農家の親仁が、
「へいへい、山雀の宿にござります。」
「ああ、風情なものじゃの。」
能の狂言の小舞の謡に、
いたいけしたるものあり。張子の顔や、練稚児。しゅくしゃ結びに、ささ結び、やましな結びに風車。瓢箪に宿る山雀、胡桃にふける友鳥……
「いまはじめて相分った。――些少じゃが餌の料を取らせよう。」
小春の麗な話がある。
御前のお目にとまった、謡のままの山雀は、瓢箪を宿とする。こちとらの雀は、棟割長屋で、樋竹の相借家だ。