むかしの人間は今の人間よりも早熟であった。わたしもその一人であったらしい。その当時まだ八歳ではあったが、団十郎のこの一言に対して、わたしは非常に憤激した事を明らかに記憶している。作者部屋というのはどんな所か知らないが、他人の子を芥か紙屑のように心得て、片っ端から抛り込むのは何という言い草であろう。実に失敬極まる奴だと思った。勿論、団十郎に何の料簡があったわけではなく、彼の性質として、自分の思ったことを率直に言ったに過ぎないのであるが、それを覚ったのは遥かに後日のことで、その当時のわたしが大いに憤懣を感じたのは詐らざる告白である。殊にわたしは日本一の団十郎の芝居というものを甚だ詰まらなく感じている矢先きであるから、その不愉快は一層であった。「いやだ、いやだ。誰がこんな詰まらない、芝居などというものを書くものか。いやなこった。」と、わたしはまったく肚を決めていた。
iPhone 買取 iPhone55! 禍福は糾える縄の如し by みう|CROOZブログ