「第四は、今の場合論じなくてもすみますから、横へどけて」
「みんな横へどけて、怪談へ戻ろうじゃないか」
「とんでもない。要するに、第二又は第三の素因によって、仔猫が宙を飛び、鞄が空を走るものと推定し得られないことはない。赤見沢博士のユニークな頭脳はそれを装置化することに成功したのではないか。仔猫が飛び鞄が走るは、その装置化の成功を語っているのではないか。しからばもはや鞄が深夜の焼跡をうろつこうと、真昼のビル街を掠めようと問題ではない。そうでしょうが……」
「いや、おかしいよ。鞄は必ずしも空中を泳いでばかりはいない。神妙に下に落着いていることもある」
「そんなことは仕掛の工合でどうにでもなりますよ。たとえぼ、鞄の把柄を手に持って鞄を下げているときには、スイッチが外れるようになっていて異変は起らない。しかし把柄が握られていないときはスイッチが入って、鞄は例の素因により万有引力に勝って浮きあがる――つまり鞄とその中身との重さが一枚の羽毛ほどの重さに変わってしまう。そういうわけでしょうな」