「透かした前途に、蘆の葉に搦んで、一条白い物がすっと懸った。――穂か、いやいや、変に仇光りのする様子が水らしい、水だと無駄です。
(ここにいらっしゃい。)
と無駄足をさせまいため、立たせておいて、暗くならん内早くと急ぐ、跳越え、跳越え、倒れかかる蘆を薙立てて、近づくに従うて、一面の水だと知れて、落胆した。線路から眺めて水浸の田は、ここだろう。……
が、蘆の丈でも計られる、さまで深くはない、それに汐が上げているんだから流れはせん。薄い水溜だ、と試みに遣ってみると、ほんの踵まで、で、下は草です。結句、泥濘を辷るより楽だ。占めた、と引返しながら見ると、小高いからずっと見渡される、いや夥しい、畦が十文字に組違った処は残らず瀬になって水音を立てていた。
早や暗くなって、この田圃にただ一人の筈の、あの人の影が見えない。
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