それは長谷部少佐が、昇進とともに艦長となった駆逐艦清風であった。艦橋に立つ少佐の前には、古谷司令官の鶴のような長身が見える。
「おお、司令官。あれに飛行島が見えます。あ、なんという惨状!」
さすがの長谷部少佐も、あまりの無慚な飛行島の有様に眼を蔽いたいほどだった。
「うむ、こいつにほんとうに向かって来られては、わが艦隊も相当苦戦に陥ったであろう。おお長谷部少佐、あれを見よ。飛行島はしずかに沈没してゆくぞ。今のうちに、例の川上等を捜索してはどうだ」
「は。では直ちに出かけることにしましょう」
駆逐艦清風は、速力をゆるめて、静止へ――。モーター・ボートが、舷側からおろされた。長谷部少佐を指揮官として、決死の戦闘員十五名がのりこんだ。ボートは巧みに本艦をはなれ、舳を飛行島に向け、水煙をたてて驀進してゆく。
長谷部少佐は、船首に立って、友の姿はいずこぞと海面を流るる死体の一つ一つに注意をくばる。