「戀の心はどんなのだえ。思うて逢ふとか、逢はないとか、忍ぶ、待つ、怨む、いろ/\あるわね。」
「えゝ、申兼ねましたが、其が其が、些と道なりませぬ、目上のお方に、もう心もくらんで迷ひましたと云ふのは、對手が庄屋どのの、其の。」
と口早に言足した。
で、お君は何の氣も着かない樣子で、
「お待ち。」
と少し俯向いて考へるやうに、歌袖を膝へ置いた姿は亦類なく美しい。
「恁ういたしたら何うであらうね。
思ふこと關路の暗のむら雲を
晴らしてしばしさせよ月影
分つたかい。一寸いま思出せないから、然うしてお置きな、又氣が着いたら申さうから。」
元二は目を瞑つて、如何にも感に堪へたらしく、
「思ふこと關路の暗のむち雲を、
晴らしてしばしさせよ月影。
御新造樣、此の上の御無理は、助けると思召しまして、其のお歌を一寸お認め下さいまし。お使の口上と違ひまして、つい馴れませぬ事は下根のものに忘れがちにござります、よく、拜見して覺えますやうに。」