「お母さん、木の実でしょうか、草の実でしょうか?」と、ききました。「やぶの中に生えている、なにかの木の実のようですね。」「これを土にうずめておくと、芽が出るでしょうか。」と、義雄さんは、たずねました。「ええ、出ますとも、みんな草や、木の実は下に落ちてそこだけに、芽を出すものではありません。こうして、鳥にたべられて、その鳥が、遠方に飛んでいって、ふんをすると種子が、その中にはいっていて、芽を出すこともあるのです。そして、その芽が大きく伸びて、一本の木となった時分には、その木の親木は、もう、枯れていることもあります。またじょうぶでいることもあります。そんなことが、たび重なるにつれて、その木の子や、孫が地面上に殖えていって繁栄するのです。」と、お母さんは、おっしゃいました。「考えると、不思議なもんですね。」「それだから、美しい実のなるのも、木には、深い意味があるので、自分の種類を保存することになるのです。」「人間は、どうなんですか。」「どう、おまえは考えるの。お父さんや、お母さんは、だんだん年をとって、働くことができなくなります。その時分には、おまえたちは大きくなって世の中のためにつくし、また、家のために力とならなければならない。そして、私たちの力でできなかったことをもやりとげなければならないのです。」とおっしゃいました。 義雄さんは、お母さんのお話をきくと、いっそう、赤い実がなつかしくなりました。その赤い実を、またざくろの木にさしておこうかとも思ったが、それよりは、お庭の日当たりのいいやわらかな土にうずめてやったほうがいいと思って、そうしました。 義雄さんには、将来の楽しみが一つできました。来年の芽の出る春が待たれたのであります。
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