「塩冶殿謀叛によって討っ手を差し向けらるるとか聞きましたが、それはまことでござりまするか。」と、小坂部は畳みかけて訊いた。「その謀叛は確かな証拠がござりまするか。」 師直はやはり舌打ちをしているばかりで、外の木枯しに耳を傾けているかのように顔をそむけていた。「父上。」「何じゃ。」と、父は煩さそうに見返った。「塩冶殿に討っ手を向けること、兄上も御同意でござりまするか。」「あのような馬鹿者は勘当じゃ。」と、師直は唾吐くように言った。「兄なぞはどうでもよい。何事も将軍家のお指図じゃ。」「そのお指図も父上からお勧め申されたのではござりますまいか。わたくし決して諄うは申しませぬ。何事もお前さまのお心に問うて御覧じませ。」 小癪なことをと言いたそうに、師直は大きい眼を屹と見据えたが、その顔にはさすがに一種の暗い影が宿っていた。小坂部は恐れげもなく又言った。「塩冶の内室の儀に就きましては、わたくしも及ばずながら父上にお味方申して居りました。
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