わたくしたちは廚子の左側に立った。高い扉は静かに左右に開かれた。長い垂れ幕もまた静かに引き分けられた。香木の強い匂いがわれわれの感覚を襲うと同時に、秘仏のあの奇妙な、神秘的な、何ともいえぬ横顔がわれわれの眼に飛びついて来た。
わたくしたちは引きよせられるように近々と廚子の垂れ幕に近づいてその顔を見上げた。われわれ自身の体に光線がさえぎられて、薄暗くなっている廚子のなかに、悠然として異様な生気を帯びた顔が浮かんでいる。その眉にも眼にも、また特に頬にも唇にも、幽かな、しかし刺すように印象の鋭い、変な美しさを持った微笑が漂うている。それは謎めいてはいるが、しかし暗さがない。愛に充ちてはいるが、しかしインド的な蠱惑(こわく)はない。
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