すると、うしろで、えへんと咳払いがした。主席は、はっとして、うしろをふりかえってみると、何時の間に現れたのか、そこには当の油学士が、いやに反り身になって突立っていたではないか。「ああ醤主席、あなたが心痛されるのは、それは一つには私を御信用にならないため、二つには金博士を御信用にならないためでありますぞ。金博士の設計になるものが、未だ曾て、動かなかったという不体裁な話を聞いたことがない。主席、あなたのその態度が改められない以上、あなたは、金博士を侮辱し、そして科学を侮辱し、技術を侮辱し、そして……」「やめろ。お前は、まるで副主席にでもなったような傲慢な口のきき方をする。見苦しいぞ。わしはお前には黙っていたが、こんどの人造人間戦車が、満足すべき実績を示した暁には、お前を取立てて、副主席にしてやろうかと考えているんだ。しかし実績を見ないうちは、お前は一要人にすぎん。――どうだ。本当に大丈夫か。仕度は間に合うか」 油学士は、かねて狙っていた副主席の話を、思いがけなく醤の口からきかされたので、彼は処女の如く、ぽっと頬を染め、「大丈夫でございますとも、丁度只今、一切の準備が整いました。仍って、夕陽を浴びて、輝かしき人造人間戦車隊の進撃を御命令ねがおうと思って、実は只今ここへ参りましたようなわけで……」 と、油学士は、急に慎しみの色を現して、醤主席を拝したのであった。