「このスコットランド・ヤードの子役人が!」 ついにホームズはくすくすと笑い出した。「その冗談、傑作です。お帰りの際は戸締まりをよろしく。すきま風が寒いので。」「用が済めばこっちから帰ってやる。他人のことにあまり首をつっこむなよ。ストーナの娘が来たのは知っとる、つけてきたからな。わしを相手にすると後悔するぞ! 見ろ。」老医師はつかつかと進むと、暖炉の火掻き棒をつかみ上げ、大きな手で折り曲げてみせた。「せいぜいわしの手に気をつけるこったな。」老医師は吠えたあと、曲がった火掻き棒を暖炉の中へ放り込み、大手を振って部屋から出ていった。「ずいぶん愛嬌のある人物だ。」と、ホームズは笑い出しながら、「僕も身体は大きくないが、待っていれば決して彼より力は弱くないことを披露できたのだが。」そういって、鉄の火掻き棒を取り上げると、ぐいと力を入れて元の通りまっすぐに伸ばした。「御仁、僕と警視庁の役人を混同するとは、なんたる暴挙! だが今の出来事は、僕等の調査のいい薬味になる。あのお嬢さんが、あの獣に後をつけられたことで、困ったことにならねばよいのだが。さて、ワトソン、朝食と行こう。そのあとで僕は博士会館へ行ってくる。事件に役立つ資料が何かあると思う。」