「いいえ、その方がいいのです」 と、房枝はニーナの好意を謝したが、そのとき気がついて、「あーら、このいい香は、なんでしょ。あら、バラの匂だわ。まあ、これは大したバラ畠ですわね」 房枝は、とつぜん目の前にひらけた一面のバラの園に、気をうばわれた。 ところがニーナは、そのすばらしいバラの園を、なぜか自慢しなかった。そして、房枝の腕をとると、前へ押しやるようにして、そのところを通りぬけた。 房枝は、ニーナの心を、はかりかねた。「ニーナさんは、バラの花が、おきらい」「えっ」 と、ニーナは、妙に口ごもり、そしてあわてて首をふった。「わたくし、きらいではありませんけれど、好きでもありません」 と、わけのわからないことをいった。 そのとき、房枝のあたまに、ふと浮かんだことがあった。それは何であったろうか。 外でもない。バラオバラコという怪しい名前のことだ、あの脅迫状に託してあった。