と、天幕とその松のあります、ちょっと小高くなった築山てった下を……温泉場の屋根を黒く小さく下に見て、通りがかりに、じろり……」
藤助は、ぎょろりとしながら、頬辺を平手で敲いて、
「この人相だ、お前さん、じろりとよりか言いようはねえてね、ト行った時、はじめて見たのが湯女のその別嬪だ。お道さんは、半襟の掛った縞の着ものに、前垂掛、昼夜帯、若い世話女房といった形で、その髪のいい、垢抜のした白い顔を、神妙に俯向いて、麁末な椅子に掛けて、卓子に凭掛って、足袋を繕っていましたよ、紺足袋を……
(鋳掛……錠前の直し。)……
ちょっと顔を上げて見ましたっけ。直に、じっと足袋を刺すだて。
動いただけになお活きて、光沢を持った、きめの細な襟脚の好さなんと言っちゃねえ。……通り切れるもんじゃあねえてね、お前さん、雲だか、風だか、ふらふらと野道山道宿なしの身のほまちだ。
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