俺は書かずにゐられない心持を知つてゐる。俺の中にたしかなものを感ずるにつれて、俺の此心持は愈〃切實になつて來る。 俺は書くことが出來ない心持を知つてゐる。大なる醗酵の時、大なる動亂の時には、肚の中に渦卷くもの、燃えるものを感ずるのみで姿が定まらない。半成の姿は之を筆にするに及ばずして、之を熔解し、之を破壞する力に逢着する。書けないと云ふ事は沒落の徴候ともなり又大なる準備の徴候ともなる。發育のカーヴが急轉する時、書くことが出來なくなるのは當然である。俺は書けない意味を知つてゐるつもりである。 俺は又書くことの危險を知つてゐる。或經驗を深く掘つて行く努力の方向と、或經驗を總攬し形成し――從つて書く――努力とは必ずしも一致しない。經驗の爛熟を待たずして、意識をその表現に轉向する時、經驗は往々その歩みをとゞめる。
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