實は、私は、此の人に話したのであつた。
こんなのは、しかし憎氣はない。
再び幾日の何時ごろに、第一震以上の搖かへしが來る、その時は大海嘯がともなふと、何處かの豫言者が話したとか。何の祠の巫女は、燒のこつた町家が、火に成つたまゝ、あとからあとからスケートのやうに駈※る夢を見たなぞと、聲を密め、小鼻を動かし、眉毛をびりゝと舌なめずりをして言ふのがある。段々寒さに向ふから、火のついた家のスケートとは考へた。……
女小兒はそのたびに青く成る。
やつと二歳に成る嬰兒だが、だゞを捏ねて言ふ事を肯かないと、それ地震が來るぞと親たちが怯すと、
「おんもへ、ねんね、いやよう。」
と、ひい/\泣いて、しがみついて、小さく成る。
近所には、六歳かに成る男の兒で、恐怖の餘り氣が狂つて、八疊二間を、縱とも言はず横とも言はず、くる/\駈※つて留まらないのがあると聞いた。