そればかりではなく、ポオル叔父さんは旅行中は無口な人で、嗜み深い態度を取つたまゝ黙つて居ります。折々、今までに見た事も無く、これからも亦逢ふ事もなささうな人間で、旅行中随分仲好しになる人があるものです。こんな人達は黙つてはゐないで、随分喋舌りたがります。ポオル叔父さんはかうした人達を好きません。そしてこんな人々は意志が弱いのだと信じてゐるのです。 夕方になつて、皆んなは大喜びで帰つて参りました。旅行をしてポオル叔父さんは自分の用事を町で都合好く片附けて来ましたし、エミルとジユウルとはお互ひに新しい知識を得て帰りました。アムブロアジヌお婆あさんの大奮発の御馳走で、皆んなが晩餐を終へますと、ジユウルが真先に自分の得て来た知識を叔父さんに話しました。『今日見たものゝ中で、僕を一番感じさせたのは、長い列車を曳つ張つてゆく、機関車といふ、汽車の先頭にある機械でした。如何してあれは動くのでせう。僕はじつと見てゐたんですけれど分りませんでした。駈けて行く獣のやうに自分で走つてゐるやうですね。』『自分一人で行くんぢやない。』と叔父さんは答へました。『蒸気が動かして行くんだ。そこで、先づ蒸気と云ふのは何の事だか、そして其の力と云ふのは何んの事だか研究してみようぢやないか。『水を火にかけると、初めは温まつて来て、次ぎに空中に飛んで行く水蒸気を出しながら※え立つて来る。もつと、※続けてゐると、鍋の中には水が何にもなくなつて了ふ。水はすつかりなくなつてゐる。』