いや、もし、こういう際に、リット提督の乗る飛行島がちゃんとしていてくれれば、たとい駆逐艦隊現れようとも海の荒鷲が襲いかかろうとも、また主力艦隊が押しよせて来ようと、飛行島の持つ二十インチの巨砲が物をいうであろうし、島内にかくされた無数の新鋭駆逐機や雷撃機が凄じい威力を表したであろうに、今はすべてが、後の祭となってしまった。
飛行島は、ついに戦の前に爆破してしまったのである。そしてその残骸は、がくりと傾き、艦列からはるか後方におくれて、いたずらに波浪の洗うにまかせているのであった。
殷々たる砲声が、前方の海面に轟きはじめた。
いよいよ彼我の砲撃戦がはじまった。こうなっては、飛行島大戦隊も逃げるわけにゆかない。
こわれかかった飛行島を後にのこして、全艦隊は死にものぐるいに、日本艦隊の左翼方面へつっかかっていった。ここに壮烈なる世紀の大海戦の幕が切って落されたのだった。
雨は重く、風はいよいよ烈しく、空はますます低くたれた。砲煙爆煙は、まるで濃霧のように海面を蔽った。砲声はいよいよ盛んに、空中部隊はエンジンも焼けよと強襲に出で、そしてあちらこちらに、炎々と艦上の火災が眺められた。
次第に北方に移動しゆく大海戦の煙の中をくぐって、突如勇姿を現した一隻のわが駆逐艦があった。