冬日の暖くさしこんだ硝子窓の下に、田鍋捜査課長の机があった。課長と相対しているのは、長髪のてっぺんから地肌がすこし覗いている中年の長身の紳士だった。無髭無髯の顔に、細い黒縁の眼鏡をかけ、脣が横に長いのを特徴の、有名なる私立探偵帆村荘六だった。一頃から思えば、この探偵も深刻にふけて見える。「猫の子が宙を飛べるものなら、鞄が宙を飛んだって、仔猫の場合以上にふしぎだとはいえないわけですね」「いや帆村君、それは違うだろう。猫の子が宙を飛ぶのは許さるべきとしても、生なき鞄が宙を飛ぶのは怪談だよ。その怪談に怯やかされてわが五百万の都民は枕を高うして睡れないと山積する投書だ。あれあの籠を見たまえ」と課長は、二つ三つ向こうの部下の机上を指す。それは尤もな風景を見せていた。
投資詐欺 投資詐欺について