つい近年、まだ十二三年位にしかならないと思ふ、大井町や山王、大森海岸、品川方面を荒した泥棒があつたが、この人は大井と品川の中間位に暮してゐて本当は郵便局につとめてゐた。いつから考へついた事かよく分らないが、一人でこそこそ夜の仕事を始めた。だんだん仕事が大きくなつて大井町山王あたりの裕福さうな家々は順番みたいにつぎつぎ被害をうけた。あの辺の交番の巡査や夜警の刑事たちは夜おそく郵便局のしるしをつけた灯を照らしながら歩いて行く電報配達人の姿を見ても誰もそれを気にとめなかつた。新聞でもその話はこまかく出なかつたやうに思ふ。あるひは郵便局といふ公の団体の中の一人が横道にはいつての働きぶりは大ぴらに書かれなかつたのかもしれなかつた。一年半ぐらゐ彼は静かに器用にその仕事をつづけてゐたが、ある夜、前に一度この配達人を或る夜ふけに大井の庚塚あたりで見かけたことのある刑事が、また二度目に新井宿四丁目で彼とすれ違つた時、頭に何かひらめくものがあつて「おい、君……」と呼びかけた。配達人はこの晩は自転車だつたが、いつになく狼狽した。「はい」と言つて彼は自転車を止めたが、止めたと思つたのはただ一瞬で、もう駄目と彼は逃げてしまつた。
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