「おっちゃん、煙草の火貸してんか」 ドスンドスンと歩いていた木崎の前に、娘はバスガールのように足をひらいて、傲然と立ちはだかった。 声も若かったが、木崎がライターの火をつけると、まだ大人になり切らない娘の顔が、ぱっと白く浮び上り、十七か八であろう。 しかし、娘は三十芸者のように、器用に火をつけて、「おっちゃん、どこまで行きはるのン……?」 と、きいて、アパートへ帰るんだ――という返辞もまたず、煙をふきだしながら、ついて来た。「まだ、何か用か……?」「夜道は物騒やさかい、そこまで送って行ってくれたかテ、かめへんやろ」「そこまでって、どこまでだ……?」「おっちゃんは……?」「清閑寺の方だ」「うちもその辺や」「嘘をつけ!」 と言おうとしたが、木崎はだまって娘と肩を並べて円山公園を抜けると、高台寺の方へ折れて行った。 三条大橋、四条大橋、円山公園に佇む女は殆んどいかがわしい女ばかりだ――と、噂にもきき、目撃もして来たから、すぐにそれと直感したが、しかし、ふと、そうとも決め切ってしまえない感じが、その娘のどこかにあったせいだろうか。 若すぎるから……ではなかった。十七や八はざらだった。そして、そんな年頃の、いかがわしい女は、若さの持ついやらしさがベタベタとぬった白粉や口紅を、不潔に見せていたが、この娘の白粉気のない清潔な皮膚には、遠いノスタルジアがあった。 紫の御所車のはいった白地の浴衣に、紫の兵児帯――不良少女じみて煙草を吸っていても、何か中学時代のハーモニカの音を想わせた。
世田谷 矯正歯科 木、強ければ折れ易し