しかし、エセックスが、マウントジョイがいけなければ誰にするかと問い詰められたとき、ベエコンのこの忠告を思い出しただろうことは充分推察しえられるのである。彼はベエコンの言を、自分の意見のごとく、会議の席上に持ちだした。カムデンの記録に従えば「アイルランドへ派遣すべきものは、貴族のなかの一流人物であり、権勢と名誉と富においても、また軍人仲間の人望においても、同様に強力な人物でなければならぬ。そう主張するときの伯爵は、あたかも指先で自分自身を指さしているかのように見えた」 侍史は、誠実の溢れたおとなしい顔で、黙って会議の卓に坐っていた。彼の考えはなにか? もし伯爵が本当にアイルランドにゆくということになれば、――おそらくそれはいっそう好いだろう。セシルは、慎重な考えかたで、未来を吟味した。イングランドを留守にするのが、彼にとってどんなに危険であるかを知らぬはずはなく、ただ大向こうを唸らせようとしているだけのことではないか。だが、セシルは、従兄のベエコンと同様に、あの勇敢な人物が持つ弱点を知っている。――あの「嘘から誠をだす」性向を知っている。未来にどんなことが持ち上がるか、セシルには、はっきり見えるような気がした。当時彼は、打ち明けた文通者に次のように書き送っている。「マウントジョイ卿が指名された。しかし、あなたにとくに秘密に、侍史としてでなく友人としてお話するが、私の想像するところでは、エセックス伯が、アイルランド代官として現地にゆくであろう」 ほかにどういう微かな、人目につかぬ動きかたをしたかについては、われわれはなにも知らない。御前会議では、伯爵の自己推薦は反対され、もしくは無視されたこと、そして、サア・ウィリアム・ノリスの名が、候補者として突然再登場したこと、等である。
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