と、ちょろりと舌を出して横舐を、遣ったのは、魚勘の小僧で、赤八、と云うが青い顔色、岡持を振ら下げたなりで道草を食散らす。
三光町の裏小路、ごまごまとした中を、同じ場末の、麻布田島町へ続く、炭団を干した薪屋の露地で、下駄の歯入れがコツコツと行るのを見ながら、二三人共同栓に集った、かみさん一人、これを聞いて、
「何だい、その言種は、活動写真のかい、おい。」
「違わあ。へッ、違いますでござんやすだ。こりゃあ、雷神坂上の富士見の台の差配のお嬢さんに惚れやあがってね。」
「ああ、あの別嬪さんの。」
「そうよ、でね、其奴が、よぼよぼの爺でね。」
「おや、へい。」
「色情狂で、おまけに狐憑と来ていら。毎日のように、差配の家の前をうろついて附纏うんだ。昨日もね、門口の段に腰を掛けている処を、大な旦那が襟首を持って引摺出した。お嬢さんが縋りついて留めてたがね。へッ被成もんだ、あの爺を庇う位なら、俺の頬辺ぐらい指で突いてくれるが可い、と其奴が癪に障ったからよ。自転車を下りて見ていたんだが、爺の背中へ、足蹴に砂を打っかけて遁げて来たんだ。