『線路工夫……?』 と聞きとがめると、Y――君が、『いゝエ、電燈線の線路工夫でせう、此頃この邊に引かれた電燈線があるのです。』 と説明した。 眼白でも飼はねばなア、斯んな山の中では何の樂しみもねエ、と言ひながら彼は立ちがけに、私のころがして置いた空壜を取りあげて、これ、貰つて行くよ、酢を入れとくにいゝからナ、とどんぶりに入れた。 我等も程なく其處を立つた。するとまた眼白籠が路ばたの枝に懸けられ、鳥ばかりが高音(たかね)を張つて、見※してもその主人公はゐなかつた。『ア、あんな所に!』 見れば成程、路から一寸離れた櫟(くぬぎ)や小松の雜木林の中に立ててある眞新しい電柱の上に登つて彼は何やら爲しつゝある所であつた。 下りつけば其處は幾つかの小山の裾の落ち合つた樣なところで、狹い澤となつてゐた。片寄りに一すぢの溪が流れ、あちらの山こちらの山の根がたにすべてゞ 十二三軒もあらうかと思はるゝ藁家が見えた。それらの家に圍まれた樣な澤はみな麥の畑で、黄いろくも黒くも見ゆるそれをせつせといま刈つてゐた。黄柳野村(つげのむら)といふのであつた。
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