■長い時間
やがて感慨深そうに眼を閉じて、何やら二三分間考えていた男は、急に高らかに笑い出しながら眼を開いて、そこいらを見廻した。「アハハハハ。馬鹿野郎。何を考えているんだ。考えたって何になるんだ。アハハハハ。おい。ボーイ。酒だ酒だ。ウイスキーでもアブサンでも、ジンでも、キュラソーでも何でも持って来い。みんな飲んでやる。ねえ諸君……」
(続きを読む)
■二人の様子
間もなく大勢の客がどかどかと這入って来て酒を呑んで騒ぎ出したので、二人の存在がそれっきり忘れられてしまった。尤もその間の二十分間ばかりというもの、男と女はひそひそと話ばかりしていたが、しまいに男は又かなり酔っ払ったらしい声で呶鳴り出した。「……ええうるさいッ。最早話はわかっているじゃないか。子供を思い切るという位、理窟のわかる貴様が、どうしてこれがわからないんだ。貴様は貴様の仕事をする。俺は俺のいいようにする。どこへ行こうと、何をしようと俺の勝手だ。貴様の知った事じゃない。黙っていろ」
(続きを読む)
■色紙と麦稈
いくらか分けて与えたが、瑠美子は寂しそうで、色紙も麦稈もじき庭へ棄ててしまった。葉子は傍ではらはらするように、立ったり坐ったりしているのだったが、庸三はそのころから身のまわりのものを何かとよく整理しておく咲子のものを分けさせる代りに、瑠美子には別に同じようなものを買ってやった方がいいと思っていた。
(続きを読む)
ナビ: < 2 | 3 | 4 | 5 >
-ホーム
-SEO対策 [206]
(c)一災起これば二災起こる All rights reserved.