■二人の様子
この声は二階中に響き渡って、客人の大部分に聴き耳を立てさせた。その口調の中には、こんなカフェーの中に不似合な、何ともいえない涙ぐましい響があったので、一時カフェーの中がしいーんとした位であった。一方に女は男からそう云われると、身も世もあらぬ体で、鼻紙で顔を押えて泣き声を忍んでいる様子であったが、そのまましゃくり上げながら立ち上って、しおしおと階段を降りて行った。 こんな場面を見せ付けられたカフェーの中はすっかり白気渡ってしまった。そうして階段を降りて行く女の姿を見送った人々は、直ぐに視線を転じて、あとに残った男の方を凝視するのであったが、男はそんな事に気も付かない体で、椅子の背に横すじかいに凭れかかったまま女の出て行ったあとをじいーっと見詰めているようであった。偏差値40からの医学部受験は慶応進学会フロンティア
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