一災起これば二災起こる
■雨のふる日でもトロトロと鳴いている
私は旧友に逢ったような懐かしい心持で、その鳶が輪を作って飛ぶ影をみあげている。鳶はわが巣を人に見せないという俗説があるが、私の家のあたりへ飛んで来る鳶は近所の西郷山に巣を作っているらしい。その西郷山もおいおいに拓かれて分譲地となりつつあるから、やがてはここらにも鳶の棲家を失うことになるかも知れない。いかに保護されても、鳶は次第に大東京から追いやらるるのほかはあるまい。
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■日露戦争前と記憶している
麹町の英国大使館の旗竿に一羽の大きい鳶が止まっているのを見付けて、英国人の館員や留学生が嬉しがって眺めていた。留学生の一人が私に云った。「鳶は男らしくていい鳥です。しかし、ロンドン附近ではもう見られません。」 まだ其の頃の東京には鳶のすがたが相当に見られたので、英国人はそんなに鳶を珍しがったり、嬉しがったりするのかと、私は心ひそかに可笑しく思った位であったが、その鳶もいつか保護鳥になった。
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■私は殆んど鑑識課の仕事を度外視している
自分一個の楽しみから、この記録を公表する気になったものである。同時に最新式科学探偵機関の精鋭を極めた警察を有する仏国巴里の真中でこんな記録をものする私のこのカビの生えた頭までもが、一つの小さな反語的な存在ではあるまいかというような、一種の自己陶酔的微苦笑を感じている事実までも、序に附記さして頂く所以である。
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