■青鬼が、 「ぼうぼう、ぼうぼう、」
青鬼が、「ぼうぼう、ぼうぼう、」 赤鬼が、「ぐらッぐらッ、ぐらッぐらッ。」 と陰気な合言葉で、国境の連山を、黒雲に背負って顕れた。 青鬼が、「ぼうぼう、ぼうぼう、」 赤鬼が、「ぐらッぐらッ、ぐらッぐらッ。」 よくない洒落だ。――が、訳がある。……前に一度、この温泉町で、桜の盛に、仮装会を催した事があった。その時、墓を出た骸骨を装って、出歯をむきながら、卒堵婆を杖について、ひょろひょろ、ひょろひょろと行列のあとの暗がりを縫って歩行いて、女小児を怯えさせて、それが一等賞になったから。…… 地獄の釜も、按摩の怨念も、それから思着いたものだと思う。一国の美術家でさえ模倣を行る、いわんや村の若衆においてをや、よくない真似をしたのである。「ぼうぼう、ぼうぼう。」「ぐらッぐらッ、ぐらッぐらッ。」「あら、半助だわ。」 と、ひとりの若い女中が言った。 石を、青と赤い踵で踏んで抜けた二頭の鬼が、後から、前を引いて、ずしずしずしと小戻りして、人立の薄さに、植込の常磐木の影もあらわな、夫人の前へ寄って来た。 赤鬼が最も著しい造声で、「牛頭よ、牛頭よ、青牛よ。」「もうー、」 と牛の声で応じたのである。「やい、十三塚にけつかる、小按摩な。」「もう。」「これから行って、釜へ打込め。」「もう。」「そりゃ――歩べい。」「もう。」「ああ、待って。」 お桂さんは袖を投げて一歩して、「待って下さいな。」 と釜のふちを白い手で留めたと思うと、「お熱々。」 と退って耳を圧えた。わきあけも、襟も、乱るる姿は、電燭の霜に、冬牡丹の葉ながらくずるるようであった。
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■寝床を辷って、窓下の紫檀の机に
寝床を辷って、窓下の紫檀の机に、うしろ向きで、紺地に茶の縞お召の袷羽織を、撫肩にぞろりと掛けて、道中の髪を解放し、あすあたりは髪結が来ようという櫛巻が、房りしながら、清らかな耳許に簪の珊瑚が薄色に透通る。……男を知って二十四の、きじの雪が一層あくが抜けて色が白い。眉が意気で、口許に情が籠って、きりりとしながら、ちょっとお転婆に片褄の緋の紋縮緬の崩れた媚かしさは、田舎源氏の――名も通う――桂樹という風がある。 お桂夫人は知らぬ顔して、間違って、愛読する……泉の作で「山吹」と云う、まがいものの戯曲を、軽い頬杖で読んでいた。「御意で、へ、へ、へ、」 と唯今の御前のおおせに、恐入った体して、肩からずり下って、背中でお叩頭をして、ポンと浮上ったように顔を擡げて、鼻をひこひこと行った。この謙斎坊さんは、座敷は暖かだし、精を張って、つかまったから、十月の末だと云うのに、むき身絞の襦袢、大肌脱になっていて、綿八丈の襟の左右へ開けた毛だらけの胸の下から、紐のついた大蝦蟇口を溢出させて、揉んでいる。「で、旦那、身投げがござりましてから、その釜ヶ淵……これはただ底が深いというだけの事でありましょうで、以来そこを、提灯ヶ淵――これは死にます時に、小一が冥途を照しますつもりか、持っておりましたので、それに、夕顔ヶ淵……またこれは、その小按摩に様子が似ました処から。」
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■と、天幕とその松のあります
と、天幕とその松のあります、ちょっと小高くなった築山てった下を……温泉場の屋根を黒く小さく下に見て、通りがかりに、じろり……」 藤助は、ぎょろりとしながら、頬辺を平手で敲いて、「この人相だ、お前さん、じろりとよりか言いようはねえてね、ト行った時、はじめて見たのが湯女のその別嬪だ。お道さんは、半襟の掛った縞の着ものに、前垂掛、昼夜帯、若い世話女房といった形で、その髪のいい、垢抜のした白い顔を、神妙に俯向いて、麁末な椅子に掛けて、卓子に凭掛って、足袋を繕っていましたよ、紺足袋を……(鋳掛……錠前の直し。)…… ちょっと顔を上げて見ましたっけ。直に、じっと足袋を刺すだて。 動いただけになお活きて、光沢を持った、きめの細な襟脚の好さなんと言っちゃねえ。……通り切れるもんじゃあねえてね、お前さん、雲だか、風だか、ふらふらと野道山道宿なしの身のほまちだ。
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