■むかしの人間は今の人間よりも
むかしの人間は今の人間よりも早熟であった。わたしもその一人であったらしい。その当時まだ八歳ではあったが、団十郎のこの一言に対して、わたしは非常に憤激した事を明らかに記憶している。作者部屋というのはどんな所か知らないが、他人の子を芥か紙屑のように心得て、片っ端から抛り込むのは何という言い草であろう。実に失敬極まる奴だと思った。勿論、団十郎に何の料簡があったわけではなく、彼の性質として、自分の思ったことを率直に言ったに過ぎないのであるが、それを覚ったのは遥かに後日のことで、その当時のわたしが大いに憤懣を感じたのは詐らざる告白である。殊にわたしは日本一の団十郎の芝居というものを甚だ詰まらなく感じている矢先きであるから、その不愉快は一層であった。「いやだ、いやだ。誰がこんな詰まらない、芝居などというものを書くものか。いやなこった。」と、わたしはまったく肚を決めていた。iPhone 買取 iPhone55! 禍福は糾える縄の如し by みう|CROOZブログ
■やがて傍にいた男が
やがて傍にいた男が茶と菓子とを出すと、団十郎はその男にむかって、「坊ちゃんにはあっちの菓子を……。」という。男は心得てすぐに起ったが、半紙の上に大きなカステラを幾片か乗せて、わたしの前へ持って来ると、団十郎はわたしを見かえって、「おあがんなさい。」と、顎を突き出して言った。その言い方とその態度が、かの守田などとはまるで違って、頗る不人相で横柄なようにも感じられたので、わたしは子供心にも不愉快であった。彼に対する一種の反感から、わたしはただうなずいたばかりで、カステラの方へは眼もくれなかった。すると、団十郎は父にむかって、「芝居の改良はこれからです。」というようなことを言い、更にわたしにむかって、「あなたも早く大きくなって、好い芝居を書いてください。」と笑いながら言った。 それだけならば、単に当座の冗談として聞き流すべきであったが、彼は父にむかって更にこんなことを言った。「わたしはそれを皆さんに勧めているのです。片っ端から作者部屋に抛り込んで置くうちには、一人ぐらいは物になるでしょう。」ユーカリが丘 ヘアサロン
■中幕の「勧進帳」が終って後に
中幕の「勧進帳」が終って後に、わたしは父に連れられて楽屋へ行った。その途中の甚だ乱雑なのに驚かされたが、低い梯子段のあがり口で、かの守田勘弥に出逢うと、きょうもやはり丁寧に挨拶していた。 団十郎の部屋はあまり広くなかったように記憶している。中には四、五人の男が控えていた。その人たちが席を譲って、わたしたちを通してくれると、こっちへ向き直ったのが部屋の主人の団十郎で、舞台で見たと同じように眼だまの大きい、色の真っ白な人で、大きい鏡の前に大きい蒲団をしいて坐っていたが、父にむかって「今日は好うこそ。」と丁寧に挨拶した。それから父といろいろの話をはじめたが、舞台で大きい声を出すにも似合わず、なんだか低い声で、おまけに少し舌が廻らないような口の利き方で、聴いていても甚だ面白くないような話しぶりであった。浦安 歯科 クレジットカードあれこれ 【無料HP Chip!!】
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