この世でいちばん大事なこと
■この経験がある
 この経験がある。 水でも飲まして遣りたいと、障子を開けると、その音に、怪我処か、わんぱくに、しかも二つばかり廻って飛んだ。仔雀は、うとりうとりと居睡をしていたのであった。……憎くない。 尤もなかなかの悪戯もので、逗子の三太郎……その目白鳥――がお茶の子だから雀の口真似をした所為でもあるまいが、日向の縁に出して人のいない時は、籠のまわりが雀どもの足跡だらけ。秋晴の或日、裏庭の茅葺小屋の風呂の廂へ、向うへ桜山を見せて掛けて置くと、午少し前の、いい天気で、閑な折から、雀が一羽、……丁ど目白鳥の上の廂合の樋竹の中へすぽりと入って、ちょっと黒い頭だけ出して、上から籠を覗込む。嘴に小さな芋虫を一つ銜え、あっち向いて、こっち向いて、ひょいひょいと見せびらかすと、籠の中のは、恋人から来た玉章ほどに欲しがって駈上り飛上って取ろうとすると、ひょいと面を横にして、また、ちょいちょいと見せびらかす。いや、いけずなお転婆で。……ところがはずみに掛って振った拍子に、その芋虫をポタリと籠の目へ、落したから可笑い。目白鳥は澄まして、ペロリと退治た。吃驚仰天した顔をしたが、ぽんと樋の口を突出されたように飛んだもの。
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■そこの処に婦人が一人立ってました
「そこの処に婦人が一人立ってました、や、路を聞こう、声を懸けようと思う時、 近づく人に白鷺の驚き立つよう。 前途へすたすたと歩行き出したので、何だか気がさしてこっちでも立停ると、劇しく雪の降り来る中へ、その姿が隠れたが、見ると刎橋の際へ引返して来て、またするすると向うへ走る。 続いて歩行き出すと、向直ってこっちへ帰って来るから、私もまた立停るという工合、それが三度目には擦違って、婦人は刎橋の処で。 私は歩行き越して入違いに、今度は振返って見るようになったんだ。 そうするとその婦人がこう彳んだきり、うつむいて、さも思案に暮れたという風、しょんぼりとして哀さったらなかったから。 私は二足ばかり引返した。 何か一人では仕兼ねるようなことがあるのであろう、そんな時には差支えのない人に、力になって欲しかろう。自分を見て遁げないものなら、どんな秘密を持っていようと、声をかけて、構うまいと思ってね。 オーディオ 買い取り  クレジットカードを学ぼう

■我が胸のあたりを
 我が胸のあたりをさしのぞくがごとくにして、「こんな扮装だから困ったろうじゃありませんか。 叔母には受取ったということに繕って、密と貴女から四ツ谷の方へ届けておいて下さいッて、頼んだもんだから、少い夜会結のその先生は、不心服なようだッけ、それでは、腕車で直ぐ、お宅の方へ、と謂って帰っちまったんですよ。 あとは大飲。 何しろ土手下で目が覚めたという始末なんですから。 それからね。 何でも来た方へさえ引返せば芳原へ入るだけの憂慮は無いと思って、とぼとぼ遣って来ると向い風で。 右手に大溝があって、雪を被いで小家が並んで、そして三階造の大建物の裏と見えて、ぼんやり明のついてるのが見えてね、刎橋が幾つも幾つも、まるで卯の花縅の鎧の袖を、こう、」 借着の半纏の袂を引いて。「裏返したように溝を前にして家の屋根より高く引上げてあったんだ。」 それも物珍しいから、むやむやの胸の中にも、傍見がてら、二ツ三ツ四ツ五足に一ツくらいを数えながら、靴も沈むばかり積った路を、一足々々踏分けて、欽之助が田町の方へ向って来ると、鉄漿溝が折曲って、切れようという処に、一ツだけ、その溝の色を白く裁切って刎橋の架ったままのがあった。  川崎 審美歯科 虎穴に入らずんば虎子を得ず

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