■こう爺さん、おめえどこだ
「こう爺さん、おめえどこだ」と職人体の壮佼は、そのかたわらなる車夫の老人に向かいて問い懸けたり。車夫の老人は年紀すでに五十を越えて、六十にも間はあらじと思わる。餓えてや弱々しき声のしかも寒さにおののきつつ、「どうぞまっぴら御免なすって、向後きっと気を着けまする。へいへい」 と、どぎまぎして慌ておれり。「爺さん慌てなさんな。こう己ゃ巡査じゃねえぜ。え、おい、かわいそうによっぽど面食らったと見える、全体おめえ、気が小さすぎらあ。なんの縛ろうとは謂やしめえし、あんなにびくびくしねえでものことさ。おらあ片一方で聞いててせえ少癇癪に障って堪えられなかったよ。え、爺さん、聞きゃおめえの扮装が悪いとって咎めたようだっけが、それにしちゃあ咎めようが激しいや、ほかにおめえなんぞ仕損いでもしなすったのか、ええ、爺さん」
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■風が、どっと吹いて
風が、どっと吹いて、蓮根市の土間は廂下りに五月闇のように暗くなった。一雨来よう。組合わせた五百羅漢の腕が動いて、二人を抱込みそうである。 どうも話が及腰になる。二人でその形に、並んで立ってもらいたい。その形、……その姿で。……お町さんとかも、褄端折をおろさずに。――お藻代も、道芝の露に裳を引揚げたというのであるから。 一体黒い外套氏が、いい年をした癖に、悪く色気があって、今しがた明保野の娘が、お藻代の白い手に怯えて取縋った時は、内々で、一抱き柔かな胸を抱込んだろう。……ばかりでない。はじめ、連立って、ここへ庭樹の多い士族町を通る間に――その昔、江戸護持院ヶ原の野仏だった地蔵様が、負われて行こう……と朧夜にニコリと笑って申されたを、通りがかった当藩三百石、究竟の勇士が、そのまま中仙道北陸道を負い通いて帰国した、と言伝えて、その負さりたもうた腹部の中窪みな、御丈、丈余の地蔵尊を、古邸の門内に安置して、花筒に花、手水鉢に柄杓を備えたのを、お町が手つぎに案内すると、外套氏が懐しそうに拝んだのを、嬉しがって、感心して、こん度は切殺された、城のお妾さん――のその姿で、縁切り神さんが、向うの森の祠にあるから一所に行こうと、興に乗じた時……何といった、外套氏。――「縁切り神様は、いやだよ、二人して。」は、苦々しい。 だから、ちょっとこの子をこう借りた工合に、ここで道行きの道具がわりに使われても、憾みはあるまい。
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■戀の心はどんなのだえ
「戀の心はどんなのだえ。思うて逢ふとか、逢はないとか、忍ぶ、待つ、怨む、いろ/\あるわね。」「えゝ、申兼ねましたが、其が其が、些と道なりませぬ、目上のお方に、もう心もくらんで迷ひましたと云ふのは、對手が庄屋どのの、其の。」 と口早に言足した。 で、お君は何の氣も着かない樣子で、「お待ち。」 と少し俯向いて考へるやうに、歌袖を膝へ置いた姿は亦類なく美しい。「恁ういたしたら何うであらうね。
思ふこと關路の暗のむら雲を 晴らしてしばしさせよ月影
分つたかい。一寸いま思出せないから、然うしてお置きな、又氣が着いたら申さうから。」 元二は目を瞑つて、如何にも感に堪へたらしく、「思ふこと關路の暗のむち雲を、 晴らしてしばしさせよ月影。 御新造樣、此の上の御無理は、助けると思召しまして、其のお歌を一寸お認め下さいまし。お使の口上と違ひまして、つい馴れませぬ事は下根のものに忘れがちにござります、よく、拜見して覺えますやうに。」
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