この世でいちばん大事なこと
■鼠に向って躍りかかろうとする猫
それは今や鼠に向って躍りかかろうとする猫の如きその男の腰に、どすんと突き当った赤革のトランク一箇――女は生命を捨てずに済んだ。男は荒療治を決行するに及ばなかった。男も女も、一応妖異に対する恐怖心を起しかかったが、それは慾心によって簡単に撃退された。開いた鞄の中のすごい内容物はあらゆる問題を解決した。女は急に男に対してやさしくなり、そしてその鞄を二人で守って男のアパートへ入り、同棲生活の第一夜を絢爛と踏み出すことに両人の意見は完全なる一致をみたのであるが、この詳細もここにくだくだしく描写している遑はない。 それよりは問題はトランクの運命にある。そのトランクは翌朝両人が目ざめてみると、たしかにそこに置いた筈の夜具の裾のところには見当らず、両人は目を皿にして部屋中を匐い廻ったがどこにもなく、そこで両人互いに相手を邪推して立廻りへと移行したが、両人が相手の顔を捻じて天井へ向けたときに、そこにぴったり吸いついている前夜のトランクを両人が同時に発見した。そこで両人は再び協力し、誰がトランクを天井の桟に釘をうってそれへ引掛けたかを怪しみながら、机に椅子を積み重ね、箒や蝙蝠傘やノックバットまで持ちだしてそのトランクを下ろそうと試みた。そのうちにどうした拍子かトランクの蓋が開いて、その中身が五彩の滝となって下に落ちて来た。両人がそれにとびついて、かき集めている間に、トランクは明いた窓から黙って外へ飛び出していった。 トランクの後を追って書きつけていると際限がないので、しばらくトランクから離れた話をしようと思う。

詐欺被害 NPO法人 こうち被害者支援センター

■さあ、お待ち遠さまでした
「さあ、お待ち遠さまでした」と秀蓮尼は座を立って「では、いよいよ貴方を逃がす工夫に取り懸りましょう。だがくれぐれも申して置きますが、これからあたしがどんなことを貴方さまにいたしましょうともまたどんなことをお感じになっても、最初のお約束どおり、何もあたしの言葉に随い、この黄風島から対岸の懐しい内地、君島へ脱走して下さるでしょうね。それが誓っていただけるでしょうね」「仕方がありません。前に云ったとおり、僕は庵主さんの命令に、絶対に服従します」「結構です。――では、仕度にかかりましょう」 そういうと、庵主は僕をさしまねいて、隣室の戸棚から、一つの葛籠を下ろすと、これを弥陀の前にまで担がせた。僕が蓋を明けましょうかというと、まあ暫くといって止めた。「これから貴方を変装させるのよ。それですっかり裸になって下さい」 僕は庵主の顔を見たが、諦めて学生服を脱ぎ、それから襯衣を脱ぎ、遂に下帯一つになってしまった。独自の手法で問題解決 詐欺被害の悩み・相談|詐欺110番 楽天の三木谷社長、koboの独自コンテンツで「サプライズを用意」 - IT

■弥陀の光に包まれた聖域
 さすがは弥陀の光に包まれた聖域だけに、隆魔山蓮照寺のなかまでは、追跡の手が届いてこなかった。かくて夕陽は鬱蒼たる松林のあなたに沈み、そして夜がきた。街には賑かな祭りの最後の夜が来た。鐘楼の陰の秀蓮尼の庵室の中では、語るも妖しき猟奇の夜は来たのである。 若き庵主は、弥陀如来の前に油入りの燭台を置き、黄色い灯を献じた。そして夕餐が済むと、その前に端座して静かに経文を誦し始めたのであった。僕は側から、灯に照らされた秀蓮尼の浮き彫のような顔を穴のあくほどジッと見つめていた。見れば見るほど端麗な尼僧であった。まだ若い身空を、この灰色の庵室に老い朽ちるに委せるなどとは、なんとしても忍びないことのように思われた。彼女はどんな事情で発心し、楽しかるべき浮世を捨てたのだろう。…… そんなことを考えているうちに、看経は終った。詐欺被害の悩み・相談|詐欺110番 通報/相談窓口・紛争解決_国民生活センター

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