■夫万吉郎の身体を
ヒルミ夫人は、夫万吉郎の身体を、生ながら寸断して、この冷蔵鞄のなかに入れてしまったのである。 では、ヒルミ夫人は、愛する夫を遂に殺害してしまったのであろうか。 いや、そう考えてしまうのはまだ早くはないか。 とにかくこうして、ヒルミ夫人は愛する夫の身体を冷蔵鞄のなかに片づけてしまったのである。それからというものはヒルミ夫人は、その冷蔵鞄を必ず身辺に置いて暮すようになった。 ちょっと部屋を出て廊下を歩くようなときでも、また用があって街へ出てゆくようなときでも、その冷蔵鞄はいつもヒルミ夫人のお伴をしていた。 これで夫人は、愛する夫を完全に自分のものにすることができたと思っていた。もう夫は、街へ散歩にゆくこともなくもちろん他の女に盗まれる心配もなくなったわけである。 夫人は歓喜のあまり、その日の感想を、日記帳のなかに書き綴った。それは夫人が生れてはじめてものした日記であった。その感想文は次のようなまことに短いものであったけれど――「×年×月×日。雨。」 気圧七五〇ミリ。室温一九度七。湿度八五。
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■あ、救われるかもしれない
「あ、救われるかもしれない」 リトマス試験紙が、青から赤に変るように、夫人の蒼白い頬に、俄かに赤い血がかッとのぼってきた。「――素晴らしい着想だわ」 夫人は床をコンと蹴ると、発条仕掛の人形のように、石油箱から飛びあがった。そして傍に脱ぎすててあった手術着をとりあげると、重い扉を押して、広い廊下を夫万吉郎の部屋の方へスタスタと歩いていった。 いつも空腹なヒルミ夫人の冷蔵鞄が、腹一杯にふくれたのは、それから二時間とたたない後のことだった。 その冷蔵鞄というのは、いつもヒルミ夫人の特別研究室に置いてあったものだった。それは最新式の携帯用冷蔵庫であった。夫人は時折、この鞄のなかに、動物試験につかった犬や兎の解剖屍体を入れて外を下げてあるいたものである。 しかし今日という今日は、犬や兎の屍体はすっかり取り出されて、汚物入れのなかに移されてしまった。ひとまず鞄のなかは、綺麗に洗い清められ、そしてそのあとにバラバラの人間の手や足や胴や、そして首までもが、鞄のなかにギュウギュウ詰めこまれた。その寸断された人体こそは誰あろう、他ならぬヒルミ夫人の生命をかけた愛すべき夫、万吉郎の身体であったのである。
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■メールの連絡網
幼稚園や小学校での連絡網がすべてメールになりました。
本当は電話のほうが気づきやすくてありがたいのですが、基本はメールということで一致してしまったので、これからは何かとメールの着信をいつも気にかけていなければならなくなり、若干不安を感じています。
わたしが子どもの頃は連絡網と言えば電話、しかも家庭の電話だったので、まず間違いなく本人に伝わったのですが、今は時代が変わってメールが主流となったので、送る方は確実に送っていても、それが果たして受け取られたのかどうかよくわからないと思うのです。
ただの連絡程度ならいいのですが、大事なお知らせだと困るなーと思い、いつも見逃しがないか緊張してしまいます。わたしが時代に対応しないといけませんね。
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