■塩冶殿謀叛によって
「塩冶殿謀叛によって討っ手を差し向けらるるとか聞きましたが、それはまことでござりまするか。」と、小坂部は畳みかけて訊いた。「その謀叛は確かな証拠がござりまするか。」 師直はやはり舌打ちをしているばかりで、外の木枯しに耳を傾けているかのように顔をそむけていた。「父上。」「何じゃ。」と、父は煩さそうに見返った。「塩冶殿に討っ手を向けること、兄上も御同意でござりまするか。」「あのような馬鹿者は勘当じゃ。」と、師直は唾吐くように言った。「兄なぞはどうでもよい。何事も将軍家のお指図じゃ。」「そのお指図も父上からお勧め申されたのではござりますまいか。わたくし決して諄うは申しませぬ。何事もお前さまのお心に問うて御覧じませ。」 小癪なことをと言いたそうに、師直は大きい眼を屹と見据えたが、その顔にはさすがに一種の暗い影が宿っていた。小坂部は恐れげもなく又言った。「塩冶の内室の儀に就きましては、わたくしも及ばずながら父上にお味方申して居りました。千葉 田舎暮らし 房総 oono hirosi's Posts | Gather
■K・S氏は思ったより若く、才敏な紳士であった
K・S氏は思ったより若く、才敏な紳士であった。身なりも穏当な事務家風であった。しかし、神経質に人の気を兼ねて、好意を無にすまいと極度に気遣いするところは、世俗に臆病な芸術家らしいところがあった。若夫人はわきに添って素直に咲く花のように如才なく、微笑を湛えていた。 ホテルから早速案内した銀座の日本料理屋では、畳に切り込んであるオトシに西洋人夫妻と逸作は足を突込み、かの女一人だけ足を後へ曲げて坐って、オトシの上の食台に向っていた。窓からは柳の梢越しに、銀座の宵の人の出盛りが見渡された。「イチロは、私たちが旅行に出かける前の晩も、私のうちへ送別に来て、夜遅くまで話して行って呉れました」 K・S氏はまず何事より、むす子の話こそ、両親への土産という察しのよさを示して、頻りにむす子のことを話した。 K・S氏は何度も繰り返して「彼はとても元気です」 箸をあやしげに操っていた若い夫人が傍から、「イチロ、ふふふ」と笑った。 かの女はぎょっとして、むす子に何か黙笑によって批判される行動でもあったのかと胸をうたれた。そして夫人の笑の性質によって、それが擯斥されるべきものであったのか看て取りたく思った。だが、かの女が夫人を凝視したとき、夫人はもう俯向いて、箸で吸物椀の中を探っていた。ゲイ×アーキテクト ゲイでHIVポジティブ、一年生。
■それ程むす子に与えられている知遇に
それ程むす子に与えられている知遇に親が報いてやるための奔走はもちろんのことながら、もし自分がむす子の母として、K・S氏に悪い印象を与えるような婦人であったら、K・S氏が今後むす子に対する思惑にも影響しまいものでもない。わけて女である新夫人も一緒にいることではあり、これは十分心遣いが要るとかの女は思った。母思いのむす子は、母の前では母に厳しく、母の陰では母が自慢であった。どんなにか、なつかしさに熱して、母を讃え、母をこの画家夫妻に立派に話しているかも判らない。かの女は身づくろいをしながら、どうかむす子がK・S氏の脳裡に与えているむす子の母の像を、自分は裏切り度くないものだと、しきりに念じた。 傲岸不屈の逸作も、同じようなことを感じているらしく、珍しく自分の方から、かの女の支度を促しに来ながら云った。「いやになっちゃう。子供が世話になってる人というと、何だか急所を掴まえられているようで、一目置いちまう。人間もから意気地がなくなっちゃう」
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