一災起これば二災起こる
■白狐の外套
「私は先年御高配を蒙りました樫尾初蔵でございます。その節は失礼ばかり致しましたにも拘らず、御容赦を得ました段、篤く御礼を申上げます。……又、この度は一方ならぬ御配慮を煩わしまして……」 私は何かなしにほっとした気持になりつつ礼を返した。二人は何等隔意のない態度で向い合ったまま、互の顔を正視し合った。「実は一昨年、志村未亡人と御一緒に日本を出発致します際の御相談では、今度日本に参ります際には、何もかも直接貴方に御相談して致したい考えでおりましたところ、貴下の御辞職の御事情を蔭ながら拝承致しましたので、それではこのような危険な仕事をお願い致す訳には行かぬ。科学の研究以外にお楽しみのない貴方のお身体に、万一の事があってはならぬ。失礼ではありますが狭山様は成るべく危険な区域にお近づきにならぬようにしてあげねば……という志村未亡人の御注意がありましたのでその方の手配を嬢次君とお母様の思い通りにして頂く事にして計画を立てました。そうしてJ・I・Cの日本到着後の活躍を見定めて、動かぬ証拠を押えてから、警視庁の御助勢を得まして一挙に撃滅する考えでおりましたところが、嬢次君が思いもかけませぬお父さんの遺書を発見したのみならず、激昂の余り、独断で行動を初めましたために、事件が意外に急速な発展を致しまして、私も面喰いましたような事で、思わぬ失礼を致しました。三鷹 歯医者

(c)一災起これば二災起こる All rights reserved.