一災起これば二災起こる
■転校してきたやつの名前が分からない
「転校生ってのは朝、来てさ、担任に呼ばれて、みんなの前に立たされて、自己紹介とかさせられて……」 「だからそれがなかったんだって、『あいつ』の場合」 まるで自己弁護でもするように、僕はけんめいに反論している。 「だいたい、転校してきてから一度も『あいつ』が学校に来たことがないのはオサムだって知ってるだろ。誰も顔さえ知らないんだよ、『あいつ』の。名前も知らない。だけど毎日顔を合わせてるんなら名前がなくちゃ不便だけど、知らないやつの名前なんか知らなくたって、誰も困らないじゃないか」 「おまえ、よくそんなに落ち着いていられるよな」 「あいつ」は新学期になって、ひとつ上級、三年生のクラスに転校してきたと言われていた。顔つきが大人びていて、普通の三年生より、本当に年が少し上らしい。何故なのか、事情は分からなかった。この町には親も親戚もなく、どこに住んでいるのか誰も知らない。イメージが膨れて、「あいつ」は身寄りも何もないアウトロー、実は相当のワルらしいという根も葉もないことも言われていた。越谷 美容室

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