■逃げろ、逃げろ!
銀造であった。田村のマダムの貴子のかつてのパトロン、チマ子が木崎に「お父っちゃんは監獄……」と語ったその父親の銀造だ。 銀造がひとりおくれて駈けていたのは、実は逃げる意志を持っていなかったからだ。 横になることも出来ぬくらい収容定員の何倍もぎっしり詰った部屋の狭さの不平や、贈賄をしなければ差入れを許さぬ守衛への反感や、食事の苦情……が積み重っていたところへ、その日は夕食がいつまで待っても与えられず、ガヤガヤ騒ぎ立てていた矢先、たまたま起った囚人同士の口論が、それを鎮圧しようとした守衛に向って飛び火して囚人と守衛の間に険悪な空気が高まって行くうちに、極度にふくれ上った昂奮はついに拘置所の檻を破り、なだれを打って飛び出したのだが、銀造はその仲間にひき込まれながら――逃げ出してもどうせつかまって、罪が重くなるばかりだと、何か諦めていた。 だから、逃げ足は渋りがちだったが、銃声に身を伏せた拍子に、北山の捨てた財布が眼にはいった。銀造は素早くそれを拾うと、「そうだ、これさえあれば逃げられる!」 淀屋橋の方へ通り魔のように走って行きながら、娘のチマ子の顔が頭をかすめ、京都へ行こう、京都へ行ってチマ子に会おうという想いの息を、ハアーハアーと重く吸っていた。久留米デリヘル愛人バンクでAF発動しました
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