一災起これば二災起こる
■秋の巴里は重く曇って
ともすれば黒い雨が通り過ぎる。テイラアは毎日喫煙室の隅に腰掛けて、ホテルの主人の和蘭人ミニィル・ヴァン・デル・ヴェルドを相手に、南阿弗利加の和蘭岬のことなどを、和蘭語まじりの英語で話し込んでいた。ヴァン・デル・ヴェルドは、一体無口な男だったが、このブルウス・テイラアとは、性が合うとみえて、珍らしく饒舌だった。
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■早く働いた方がいい
九月十六日。タケシは深更を過ぎても眠らなかった。時計の針が十二時を過ぎ、十七日に入った。だが、夜に区切りはない。 ひっそりと寝静まったアパートの中で、タケシ一人が起きていた。 狭い階段を上り、屋上に出た。 二週間前、まだまだ夏の名残をとどめていた夜の空気に、秋の気配が入りまじっていた。
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■もう一人の自分
二度目の入院のとき、豊里から少しヒビの入ったコップを持ってきた。患者の一人にそのコップを借してくれといわれ、何気なく手渡した。返されたコップには、何かしら相手の悪意が込められているような気がした。ヒビはいかにも奇妙に変質し、それによって相手は、己の力を誇示しているように思えた。
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